低強度(~30-50%1RM)でも高強度(~75-90%1RM)と同等に筋肥大する

論文レビュー

はじめに

筋肥大を目的とした場合、現在のトレーニング科学では80%1RM(8〜12回)程度の強度で行うことが最適であるといわれている。

高強度の重量でトレーニングを行うことが筋肉を肥大させるためには必要であるという考え方が一般的であるが、果たしてその通りだろうか。

実際に、動作をゆっくり行うスロートレーニングや血流を制限して行う加圧トレーニングでは、軽重量を扱っているのにもかかわらず高強度で行った場合と同様に筋肉が肥大することが研究で認められている。

果たして筋肥大に強度は必須なのか否か。

そこで今回紹介させていただく論文は、低強度群(30%-50%1RM)と高強度群(75-90%1RM)の2群に分けて12週間トレーニングを実施した時の筋肥大の応答または筋力の変化について調べたものである。

方法

被験者:49名の健康的な男性 (トレーニング歴≧2年)

低強度群:  30%-50%1RMを限界まで繰り返す(20-25回)×3セット

高強度群:  75%-90%1RMを限界まで繰り返す(8-12回)×3セット

トレーニング種目:

月/木 インクラインレッグプレスとシーテッドロウ(superset1)、ベンチプレスとケーブルハムストリングスカール(superset2)、フロントプランク

火/金 マシンショルダープレスとアームカール(superset1)、トライセプスエクステンションとワイドグリッププルダウン(superset2)、レッグエクステンション、

トレーニング期間: 12週間

結果

筋肥大

除脂肪体重(LBM)とタイプⅠ筋線維、タイプⅡ筋線維の横断面積が両群ともに増加したが、群間で有意な差は認められなかった。

筋力

・筋力は両群ともに増加したが、ベンチプレス以外の種目では群間での差は認められなかった(レッグプレス、レッグエクステンション、ショルダープレス)。

・ベンチプレスは両群ともに増加しており、高強度群の方が増加の程度が大きかった(低強度 9±1, vs. 高強度 14±1 kg, = 0.012) 。

結論

トレーニングを限界(疲労困憊)まで行った場合、低強度でも高強度と同等に筋肥大する。

筆者の考察

この研究は、今までの「筋肥大=8~12RM」というような従来の常識を覆す良い論文だと思います。筆者は疲労困憊まで行うことが重要であり、それが多くの筋線維を動員できる状態であることを示唆しています。

力を発揮する場合、まず収縮力の弱い遅筋線維から優先的に使われます(サイズの原理)。しかし、繰り返し収縮すると遅筋線維が疲労してしまい収縮力が弱くなってしまいます。そのため、残りの速筋線維も動員することによって力を維持しようと作用します。その結果、低強度でも疲労困憊まで行うことによって多くの筋線維が動員され、筋肉が肥大するのではないかと考えられます。

低強度で行うメリットは、身の回りに重い負荷がなくてもできること、さらに関節などを怪我していて十分な重さでできない時でも筋肥大が可能であることなど様々な可能性が考えられます。デメリットは、高回数で行うため、心理的な要因や心拍数の上昇によって疲労困憊までに至らない可能性が考えられます。このようにメリット、デメリットを考慮した上で選択する必要があると思います。

トレーニングのバリエーションとして、以前書かせていただいた「非線形ピリオダイゼーション」を利用してトレーニングプログラムを組むのもいいかもしれませんね。

例えば、1Day: 40%1RM強度、2Day:75%1RM強度、3Day:85%1RM強度 のように、1セッション毎に強度を変えてもいいし、1ヶ月スパンで変えて行うことも刺激のバリエーションとして良いのかなと思います。

実はこの研究には、もう一つ目的があってトレーニング直後のホルモン応答と筋肥大、筋力の変化との間の関係についても調べています。従来では、トレーニング直後に増加する血中のテストステロンや成長ホルモンなどが筋肥大に大きく影響を与えていると言われてきましたが、この研究では関係していないのではないかということを言っています。おもしろいと思うので是非読んでみるといかがでしょうか。

Neither load nor systemic hormones determine resistance training-mediated hypertrophy or strength gains in resistance-trained young men: Robert W. Morton, Sara Y. Oikawa, Christopher G. Wavell, Nicole Mazara, Chris McGlory, Joe Quadrilatero, Brittany L. Baechler, Steven K. Baker, Stuart M. Phillips Journal of Applied Physiology Published 1 July 2016 Vol. 121 no. 1, 129-138 DOI: 10.1152/japplphysiol.00154.2016

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